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※タザリア妄想SS。いろいろと酷い。シリアス。今より未来の話。
追記からどうぞ。
「愛していたのよ」
僅かに開かれた唇からこぼれ落ちた言葉の意味を、一瞬ジグリットは理解できなかった。
「……なんだって?」
「愛していたのよ、あなたを。わたしだけのものにしたかったの」
思いがけないリネアの告白に、彼女の首にかけたジグの指が震えた。殺される恐怖で、彼女は頭がおかしくなってしまったんじゃないかとさえ思った。それほどまでに、リネアの言葉は信じがたいものだった。
「だけどどうすればいいか分からなかった。弟を殺しお父様を欺き続けた孤児に恋をしているだなんて、自分にさえ認めることはできなかった」
「…………めろ」
「でも、あなたが誰かのものになるだなんて耐えられなかったわ。愚かだと理解していたけれど、どうしても許せなかったの」
「……やめろ……!」
「他の女を、あなたの心をとらえる全てを排除したところで、あなたがわたしに振り向くことがないってことも本当は分かっていたのに、それでも、わたしはあなたを――」
「やめろッ! もうやめてくれッ!」
早くこの女を黙らせてしもうと思って、ジグは手に力を込めた。しかし、何故か指からは萎えたように力が抜けてしまっていて、さっきまではあんなにか細く思えたリネアの首さえ絞め殺すことはできそうにもなかった。
ジグリットは、ニグレットフランマの効果が切れていることに気がついた。いつもならもっと長い間、力が湧いているはずだった。心に迷いが生まれてしまっている。このままではいけないとジグはリネアへの憎しみを思い出して感情を昂らせようとしたが、どうしても上手くいかなかった。
「ふざけたことを言うな! おまえがぼくに、タザリアに、何をしたか本当に分かっているのか!?」
「分かっているわ。だから、あなたに今ここで殺されても、わたしはもう構わないのよ」
リネアは掠れた声ながらも毅然と言い放ったが、その首筋に触れているジグには、彼女が小刻みに震えていることが伝わってきた。
――リネアは、ぼくに殺されることを恐れている。
先程までなら昂揚感しかもたらさなかったはずのその事実は、雷のような衝撃となってジグリットを打ちのめした。
ジグリットの沈黙をどのように解釈したのかは分からないが、リネアは凛とした声で言葉を続ける。
「あなたがわたしを憎むのは当然よ。わたしを殺したいと思っていることも。だから、あなたの思うようにして欲しいの、ジグリット――それだけがもう、わたしがあなたにしてあげられる最後のことだから」
「うるさいッ! 黙れ、黙れ黙れ黙れ――!!」
ジグリットは未だリネアの生殺与奪を完全に握っていたが、形勢は完全に逆転していた。全てを受け入れるかのように眸を閉じるリネアを恐れているのは明らかにジグリッドの方だった。
「ぼくは信じないぞ、信じてなんかやるものか! おまえはただ、孤児だったぼくが忌々しくておもちゃにしていただけなんだ! 今だって心の中では、おまえに怯えてるぼくを馬鹿にしてるんだろう!?」
搾り出すように叫びながら、ジグリットはようやく、自分がそのことを望んでいることに気づく。理解してしまえば簡単なことだった。リネアはそういうヤツでなければいけないのだ。
そうでなければ、
「――そうでなければ、ぼくがしてきたことは何だって言うんだ! 愛する人を喪い、タザリアと親友も捨てて、おまえを殺すためにここまでやってきたんだ!」
リネアが閉じていた眸を開いた。自分と同じ錆色の中に、出逢ったときから変わらない炎の熱さを感じて、ジグリットは思わず涙を流しそうになった。
「ぼくを愛しているだって!? だったら返してくれ! きみが奪ったものじゃない、きみを殺すためにぼくが捨てたすべてのものを返してくれよ――!!」
心臓に火がついたような感覚を覚えて、ジグリットは再びニグレットフランマが起動したことを知った。力を失っていた指がまた動くようになり、リネアの白い首に食い込んでいく。リネアは小さく咳き込むような呼気を吐き出した。
リネアの燃える眸は、何故かとても哀しそうだった。それを見ているのが嫌で、ジグリットは固く目を閉じた。
その時、
「……ジグ、リット」
リネアの蒼褪めた唇が動き、ほとんど聞き取れないようなか細い声が漏れた。ジグはうっすらと目を開いて、そこに、
「何を怯えているの。そんなにわたしのことが怖いの、ジグリット――」
彼が恐れ憎み続けてきた少女の不敵な微笑を見つけて、
「――嘘よ。全て嘘。信じるなんてあなたって本当に愚かだわ、ジグリット。あなたのことなんて暇つぶしのおもちゃだとしか思っていないこと、知っていたでしょう」
ほぼ反射的に、炎のように燃え上がった純粋な怒りと憎悪に身を任せ、
「殺せるものなら殺してご覧なさい、身の程知らずの騙り者の孤児の癖に! あなたなんて生まれてこなければよかったのよ、わたしだっていつかきっとあなたを殺してやろうと思っていたわ!!」
ひたむきに苛烈に生きた少女の優しい嘘に欺かれて、その手で彼と彼女の全てを終わらせた。